うわさは確かなこととなって、ますますひろまるばかりでした。そしてお詣りに来る人も、ますます多くなりました。
 顔長の長彦は、腕をくんで考えこみました。木でできている観音様の像が、七日のあいだ、あちこちまわり歩かれたということは、どうもほんとうとは思われませんでした。これはきっと、悪者どもが、なにかたくらんで、観音様を七日のあいだ盗み出し、足に泥をぬってもとにもどし、そしてふしぎなうわさをいいふらしたにちがいありません。
「用心しなければいけないよ」と長彦はいいました。
「悪者がいるとすれば、私がひとつとらえてみせます」と丸彦は答えました。
 けれども、その悪者はなかなかわかりませんでしたし、お詣りに来る人はふえるばかりでした。
 ありがたい観音様《かんのんさま》だ、生きた観音様だ、といってお詣《まい》りに来る人たちは、それぞれおさいせんをあげていきました。いくらことわっても、なげ出していきました。
 そのおさいせんが、だんだんたまってきました。大きな木の箱にいっぱいになりました。それは、観音様の前にそなえておいて、また新たにおさいせん箱をこしらえねばなりませんでした。
 するうちに、ま
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