あることだし、あの観音様に琵琶湖の護《まも》り主となっていただこう、というのです。
 さて、その日になりますと、ありがたい観音様が、琵琶湖の護り主となって、水にはいられるというので、おおぜいの人たちが湖水《こすい》のふちに集まりました。そこの岸には、紫色のはっぴをきた水夫たちが、洗いきよめた船を用意していました。その船の方へ観音様は進《すす》んでいかれました。
 まっ先に、三井寺《みいでら》から迎えられたお坊さんが行き、次に、観音様をせおっている鞍馬《くらま》の夜叉王《やしゃおう》がつづき、堅田《かただ》の顔丸の丸彦がうしろから見はりをし、そのあとに、堅田の顔長の長彦と、坂の上の朝臣がならび、さいごに、めしつかいの男や女がしたがいました。
 人々はどよめきました。
 お婆さんが、地べたにかがんで、観音様をふしおがみました。船頭のおやかたが膝《ひざ》まずいて、観音様にそっと手をふれてお祈りをしました。それから、多くの人たちが、観音様をそっとなでて、それぞれになにか祈りました。
 するうちに、観音さまをせおっている夜叉王が、しだいに苦しそうな息づかいをし、汗をながしました。観音様がだんだん 
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