重くなっていくようでした。
夜叉主《やしゃおう》としては、こんなにみんなから敬《うやま》いあがめられている観音様《かんのんさま》を、わるだくみのたねに使ったことが、とてもくやまれてならないからでした。
そして船の近くまで来ると、夜叉王は心の苦しみにたまりかねて、ばったり倒れました。その時、額《ひたい》をうって、傷をうけ、黒い血がだらだら流れました。
夜叉王はまた起きあがりました。額からはもう、赤い血が出ていました。そして、泣きながら顔長の長彦に頼みました。
「私も、観音様といっしょに、水にはいらせてください。観音様のおともをして、いつまでも、この湖水《こすい》を護《まも》りとうございます」
それは、真心のこもった言葉でした。長彦はじっと夜叉王のようすを見、深くうなずいていいました。
「今日は、そういうわけにはいかないが、お前のことは、私が考えておいてあげよう。私にまかせておくがよい」
そうして、一同はめしつかいたちを残して、船にのりこみました。
船は沖へこぎだしました。沖の深い所までいくと、そこで、観音様はしずかに水へはいられました。
坂《さか》の上の朝臣《あそん》のは
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