用心しなければなるまい」
「私がひきうけます」と、丸彦はいいました。
丸彦はただ、馬のことがうれしくてたまりませんでした。そして、観音様《かんのんさま》のお堂のそばに、りっぱな馬ごやをつくりました。
五
それから、しばらくたちますと、なんとなく、怪《あや》しいことが目につくようになりました。
観音様にお詣《まい》りにくる人たちの中にまじって、目つきの鋭い、へんな男が、こっそりようすをうかがってるようでもありました。夜なかに、観音様のお堂のあたりで、物の音がすることもありましたし、馬がにわかに動きまわることもありました。庭のあちこちに怪しい足跡がついていることもありました。
そして、ある夜、おそく、馬ごやの中で、馬がひどくあばれだしたようで、それからまた静かになりましたが、かねて気をつけていた顔丸の丸彦は、そっとおきあがって見まわりにいきました。
月が出ているはずでしたが、霧《きり》のふかい夜で、うす暗くぼうっとしていました。すかしてみると、馬ごやの前に、黒いみなりの男が立っていて、馬ごやの中をのぞいていました。
丸彦はかけよるが早いか、男の頭を、鉄づくりの鞭
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