った」
 しかしもう、馬も男も、どこかへいってしまって、姿は見えませんでした。
 丸彦は、そそっかしいことをしたとくやみながら、家の方へかえっていきました。
 野原をよこぎり、小さな丘をこえて、川づたいに帰っていきますと、その川の岸の柳のこかげに、なにか大きなものがつっ立っていました。もう、うす暗くなっていましたが、よく見ると、それが、さっきの馬だったのです。道に迷って、川岸にぼんやり立ちどまっているのです。
 男の姿はどこにも見えませんでした。
「せめて、馬でもつかまえてやろう」
 丸彦はそういって、しずかに歩みよって、まんまと馬をつかまえました。
 つかまえてみると、なおさらりっぱな馬でした。これほどの馬は、どこをさがしても見つかりそうもありませんでした。
 丸彦はすっかりうれしくなりました。その馬にのり、法螺貝《ほらがい》をこわきにかかえて、家へ帰りました。
 そして丸彦は、長彦にあって、馬をいけどりにしてきたわけを話し、馬のじまんをしました。
 長彦はいいました。
「なるほど、これはりっぱな馬だ。しかし、この馬をつかまえてきたことが、よいことになるか、悪いことになるか、いっそう
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