ような、方向定かならぬ視線だ。時に瞼をつぶって、その内部でなにか考え、またぱっと打ち開き、目玉がぐるぐると廻転する。見てる方で眩しい思いがする。
 眼の中に入れても痛くない、という愛情の表現があるが、森田の眼は、多くのものをやさしく抱擁してるに違いない。ただ、も少し静かにしていてくれるといい。酒の満ちた杯のように。今丁度、卓上の杯には酒が満ちている。電灯が映って、円やかにぼーっと閃めき……。
 あ。
 俺は酒杯の中にいた。
 空中を飛行しているのだ。空は青一色に円く、海も青一色に円い。地球が凸形に円く見えるのは地上にある時で、上空からは凹形に円く見える。壮大な瑠璃の酒杯を二つ重ねた、その中を、飛行機は飛んでいる。酒杯の縁の合せ目は、ぼーっと明るい閃めきだ。島が見えてくる。不規則に幾つも並んでいる。その上にさしかかると、海はますます青くなり、島々の周囲を白波が取り囲む。無人の岩山があり、その頂までさーっと白波が覆い、白波はまたさーっと引いて、黒い突兀たる岩山が現われ、それをまた白波が覆う。白色と青色との永遠の戯れだ。琉球上空の飛行である。
 その琉球の、瑠璃色の海を思わせる眼を持ってる、
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