きっとそうしてみせるから。その代り、気味わるいことなんか忘れてしまうんだよ。」
私は涙ぐんでしまった。
「いや、いやよ、そんなこと仰言っちゃ。」
祖母は腑に落ちない風だった。
「なにが、いやなの。」
「亡くなるなんて、そんなこといや。いいえ、きっとお癒りになるわ。お癒ししてみせるわ。あたし、学校を休んでも、どんなことしてでも、きっとお癒しするわ。」
私は顔を伏せてすすり泣いた。
「でもねえ、人にはその人の寿命というものがあるからね。」
祖母はもう覚悟していたのであろう。七十五歳の高齢で、そして老衰病だった。それから十日とたたないうちに、安らかに息を引き取ったのである。
祖母の衰弱が甚しくなると、私は気が気でなかった。学校も休んで看病の手伝いをした。兄は毎日会社に出かけたし、父もたいてい出かけた。母は見舞客の応対や家事のことに忙しく、女中も多忙だった。看護婦だけでは手が廻りかね、私は病室につきっきりのことが多かった。
そして私は、のっぺらぽうの方へあまり気を取られずにすんだ。その上、極力それを忘れようと勉めた。けれど、変なことが起った。
自分の室で、髪を直したり、着物を着
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