窓にさす影
豊島与志雄

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 祖母の病気、その臨終、葬式、初七日と、あわただしい日ばかり続く。私はまだ女学生のこととて、責任ある仕事は持たなかったが、いろいろなことをお手伝いしなければならなかった。その合間に、ほっと息をつくと、窓の方が気にかかるのだった。
 窓というものは、たいてい同じようなもので、特別に変ったのは殆んどない。私の室にある窓もごく普通なもの。南向きの縁側の左の端が私の室で、室内の左手、東側に、地袋があり、その地袋の上の棚から鴨居の高さまでが、窓になっている。地袋の棚には、人形、木彫細工、貝殼、大小さまざまな箱、硯箱など、ごたごたと私は並べている。その後ろが窓で細い桟がたくさんはいっており、磨硝子がはめこんである。磨硝子だから外は見えないし、外から室内も見えない。その小さな硝子戸が二枚、そして雨戸が二枚、その先は庭である。
 この窓が、ど
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