換えたり、一休みしたりするような時、ふと窓の方を顧みて、はっとすることがあった。その窓の磨硝子に、何か物影がさしてるのである。何物とも知れぬこともあり、自分の姿だと分ることもあり、のっぺらぽうが自分の姿に重ってると思われることもあった。たいてい、うっかりしてる油断の隙間にそれが現われて、すぐに消えた。私は自宅では和服のことが多かったし、忙しくなると着物を衣紋竹に掛けておくこともよくあったが、その自分の着物までが気味わるく思われて、出来るだけたたんでおくことにした。衣紋竹の着物が窓硝子に映るわけでもなかったが、用心しなければいけないという気持ちだった。
祖母が亡くなってからは、そういう気持ちが一層嵩じた。
祖母の死から、私は心身に直接の打撃を受けた。嘗て姉が病死したことがあるが、まだ私は幼く、大して深い感銘は受けなかった。祖母の死に接しては、身にも心にも、大きな穴があいた感じだった。
身内にあいたその穴の方へ、私の思いは引きずり込まれがちだった。そしてぼんやりした空虚な時間がまま起った。そのような時、室の窓硝子に何かの影が現われ、すぐ消えはしたが、はっと私を驚かした。
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