のものらしいね。それとも、あんたが拵えたの。」
 祖母は私の方へ顔を向けて、私をしげしげと見た。私は気恥しくなって、言い直した。
「分ったわ。やっぱり、あたしが拵え出した話じゃないの。その証拠には、ね、お祖母さま……。」
 私はとうとう、窓にさした物影、のっぺらぽうの顔のことを、打ち明けてしまった。
 祖母はちらと眉根を寄せて、溜息をつくように言った。
「そんなのは、いけないよ。」
 それから、また天井の方へ眼をやった。
「のっぺらぽうのことなんか、忘れてしまいなさい。そのお話、だいたい、理屈っぽいよ。のっぺらぽうよりか、一つ目小僧とか、三つ目小僧とかの方が、愛嬌があっていい。一つ目小僧や三つ目小僧のお話なら、いくらもあるでしょう。楽しいことを考えるんだよ。気持ちをらくに持ちなさい。そうでなくても、あんた、神経が少しくたぶれてるからね。あたしのことにいろいろ気を使って、看護婦よりもよく世話してくれるものね。あ、そうそう、約束してあげましょう。のっぺらぽうのことなんか忘れてしまったら、そしたら、わたしが亡くなったあと、あの窓の硝子に、わたしのにこにこしてる顔を映してみせるよ。待っといで、
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