ないので、早めに寝た。鏡台も机も縁側の方を向いており、蒲団も縁側の方を頭にして敷くことになっている。それで、横向きに寝ると、窓が真正面に見える。暫くとろとろとして何かの気配に眼を開いてみたら、窓の硝子戸の一枚だけが、ぼーっと明るかった。その明るいところに、なんだか物影がさしていた。見ていると、物影は伸び上って、それが、眼も鼻も口もないのっぺらぽうの顔だった。
 私はぞっとして、蒲団を被り、息を凝らした。やがて、ばかばかしいと反省して、蒲団から覗き出してみると、のっぺらぽうの顔は消えていて、硝子戸の一枚はやはりぼーっと明るかった。そこの雨戸一枚を閉め忘れてることが分った。物影は何かの錯覚だったのだろう。
 けれども私は、それからは、二ワットの小さな電球をつけて寝ることにした。外を明るく屋内を暗く、という盗難よけの法を守っていたが、盗難よりものっぺらぽうの影の方が気味わるかった。
 そんなことのために、あの話がなお深く頭にくい込んできた。それを追い払うには、話の出所を確かめるのが第一だし、学校で、国語の先生か英語の先生かに尋ねてみようと思った。けれど、いざとなると、気恥しくて口に出せなかっ
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