起した。祖母が息を引き取り、その体がすっかり拭き清められると、羽二重の白無垢に着換えさせられた。その羽二重の白無垢を、私は前に一度も聞いたこともなければ見たこともなかった。へんに唐突なそして意外な感じだった。その衣は、いつ拵えられ、どこにしまわれていたのであろうか。
白布に包まれてる遺骨の箱を見ながら、私はやたらに幾本もお線香を立てた。
火葬とそれからお骨上げは、痛々しい感じだったが、直後に、清浄な感じに変った。墓窟へのお納骨は、陰欝な感じで、あとは寒々とした感じが残った。
帰りの自動車の中で、A叔母さんは私の手を握って囁いた。
「お祖母さまの笑顔とやら、どうだったの。見えなかったでしょう。見えなくていいのよ。もうそんなこと忘れておしまいなさい。これからがほんとに淋しくなるんだけれど、あなたも気持ちでは独り立ちしなければならないから、しっかりするんですよ。お父さまやお母さまもいらっしゃるけれど、なにか気が滅入るような時には、叔母さんところにも遊びにいらっしゃいね。」
私は深く頷いたが、叔母さんの手を強く握り返す力はなかった。
家の中は、歯がぬけたような淋しい感じだった。夕食
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