子のところに、母とN叔父さんの話声がしていた。
「少し落着いたら、縁談の方も、なんとかまとめましょうや。」
「でも、すぐにどうというわけにはまいりませんでしょう。」
「だから、まあ約束だけでもね。」
「なにしろ、あのような我儘者ですから、わたくしとしましても、早く身を堅めてほしいと思っております。宅ともよく相談してみましょう。」
「わたしからも話してみますよ。」
そして二人は向うへ立って行った。
兄の縁談のことだった。それは、祖母が寝つく頃からあった話のうちの一つで、私もうすうす聞いていた。でも、今、そのことが持ち出され、それを立聞きなどしたことに、私は不愉快だった。
広間では、飲み食いと談笑とが賑かに続いていた。仏間との間の襖はすっかり開け放してあった。廊下にはいろんな物がごたごた並んでいたので、私は広間の横手から仏間へはいって行った。幾人かの視線を、そして兄と利光さんの視線をも、身に感じたが、怯みはしなかった。
仏前に坐って、私はすっかり落着いた気分になった。蝋燭もお線香も燃えつきていた。私は新らしい蝋燭をともし、お線香を何本も立てた。
その時、私は祖母の白衣のことを思い
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