か本当にならないと訴えた。
 叔母さんは注意深く聞いていたが、暫くたって言った。
「それは違います。」
 改まった調子できっぱり言われて、私は少しびっくりした。
「それは違います。」
 叔母はまた繰り返した。それから、普通の調子に戻って、私に説明してきかせた。――遠くに住んでる人だの、逢いたがってる人だのに、死んだ人が何かの合図で自分の死亡を知らせるという話は、世間にいくらもある。例えば、自分の姿をはっきりとその人の前に現わすというような話は、しばしば聞く。それが真実だか錯覚だかは別問題として、そういう場合、必ず、死んだ人の気が、一念といったようなものが、そこに籠ってるに違いない。ところが、祖母の場合は、何の気も、何の一念も、全くなかった。
「それどころか、美佐子さん有難うと、ただ安らかな気持ちでいらしたんですよ。」
「そりゃあ、お祖母さまはいつも仰言ったわ。何かちょっとしてあげると、すぐ有難うと……。」
「それとは別のことですよ。あなたが足をさすってあげたり、果物の汁を匙で口に入れてあげたり、頬の乱れ毛をかき上げてあげたり、いろんなことをする度に、有難うと仰言ったかも知れないが、そん
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