なことではありません。なんと言ったらいいか……全体の気持ちね。寝つかれてから亡くなられるまで、ずっと通して、そしてほっとしたように、美佐子さん有難う、よくしてくれましたと、感謝と安堵の気持ちね。だからそこには、何の気も籠っていないし、何の一念も籠っていないでしょう。」
私は涙ぐんで、頷いた。
「それだから、あなたの前に笑顔を現わして見せるなんて、亡くなられた後でわざわざそんなことをなさるわけは、少しもありません。そんなことを仰言ったとしても、それはただ、有難うと仰言るのと同じ気持ちからだったでしょう。」
私は返事に迷った。分るようでもあり、分らないようでもあった。ただ、祖母の約束の笑顔は到底見られないだろう、すっかり壊れてしまった、という気がした。
私は反抗するような気持ちで、いきなり尋ねた。
「叔母さまには、お祖母さまが亡くなられることが、前からお分りになっていたんでしょう。」
叔母さんはじっと私の顔を見た。
「それは、いくらかはね。」
「どうしてお分りになったの。」
「直感……霊感とでも言っておきましょうか。けれど、そのようなこと、説明のしようもないし、あなたなんか、まあ、
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