いたようだった。私はただ曖昧な微笑を浮べた。
「いろいろ、疲れたでしょう。それにまた、今日はたいへんね。」
「でも、あたし、もう余り手伝わないことにしてるの。」
「それでいいでしょう。わたしがあなたの分も働いてあげるから。」
 家事の運びから座席の取りなしなど、叔母さんがたいへん手馴れてることは、葬式の時にも私は見た。
「叔母さまは、いろいろなこと御存じね。」
「いろいろなことって、なによ。」
「御経なんかも……。」
 叔母さんは微笑しただけだったが、仏壇の方をじっと見やった。
「明日、御納骨でしょう。」
「ええ、そうらしいわ。」
 叔母さんはちょっと眼を据え、何やら独り頷いて、ゆっくり言った。
「そう、それがいいでしょう。」
 私は急に淋しい悲しい思いがし、一方では、叔母さんがたいへん頼りになる気がした。それで、女中が茶菓を運んできた後も、そこに居残っていた。けれど、何も話すことがなかった。思い切って、祖母の約束の笑顔のことを打ち明けてみた。のっぺらぽうの顔の話はすっかり陰に伏せて、ただ、亡くなっても笑顔を見せてあげると祖母が言ったことを、何気ない話題みたいに持ち出して、それがなかな
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