気がした。北川さんも少しどうかしてるんじゃないかと思った。
「とにかく、仕事を片付けましょうよ。」
「そうだ、そうだ。」
北川さんは鍬を探しだして来た。おれたちは仕事にかかった。
庭の土は思ったより柔かで、たやすく穴が掘れた。それへ梅の木を据えこむ段になって、竹中さんも立ち上って来て、加勢をした。梅の木の向きについて、うるさくいろいろなことを言った。それが一々もっともなのが、素人にしては、ふしぎだ。植付けを終えると、梅の木はそこにみごとな枝ぶりを示した。太枝に花が少し残ってるのだけが、却ってぶざまだった。
木を眺めながら、縁側に腰かけて茶を飲んでいると、竹中さんはじっとおれの方を見つめた。いつまでも見つめている。そして言った。
「君は誰ですか。」
丁寧な口の利き方だ。おれがためらっていると、北川さんが答えた。
「僕の従弟ですよ。」
「従弟さんですか。初めてですね。」
おれの方で冷りとした。ジャンパーにゴム靴なんかの姿が顧みられた。だが、彼はもう北川さんと話しだした。
「あの枝は切った方がいいですね。」
「どれですか。」
「あの、こちらへ伸び出してるやつ……。」
「そう。ちと邪
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