でございますよ。」
両親が来るというような竹中さんの言葉は、山口の憤慨を爆発させたらしい。彼は俄にまくし立てた。言い廻しは丁寧だが語調は荒かった。――昨日から貞夫が帰らないので、家の者は心配していた。貞夫はまだ充分に病気がなおってもいないし、物騒な時節柄だ。気をもんでいると、一昨日、庭の梅の古木を、植木屋が掘り返して、どこかへ運んだことが分った。それが貞夫の指図だ。植木屋をつきとめて、こちらだという見当がついた。それで、迎えに来た。いったい、どういう量見だったのか。梅の木の一本や、二本、惜しくはないが、なんで泥坊みたいな真似をするのか。誰かにそそのかされたのか。来てみると、しゃあしゃあと酒なんか飲んでいる。茶屋小屋ならまだしも、ここがどういう家か、よく考えてみたら分る筈だ。もと邸にいた娘の病気見舞いなら、見舞いのような方法もあろう。こちらだって迷惑だろう。近所に電話がないわけではあるまいし、泊まるなら泊まると、邸に電話でもするのが当り前なのを、いつまでも引き留めて酒のもてなしをするなど、以ての外だと、非難されても仕方がなく、そういう迷惑をこちらにかけては済むまい……。
山口は竹中さ
前へ
次へ
全21ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング