いろんな用をしてる番頭格の、山口という人だった。痩せた小柄な中年者で、禿げあがった額の下に、小さな眼が鋭く光っていた。一目見た時からおれはこの人が嫌いになった。山口さんなどとはどうしても言えない。山口と呼び捨てにするより外はない。
山口は一座に会釈をして、言った。
「これは、お邪魔を致します。わたくしはただ、貞夫さんだけにお目にかかれば宜しいので、外に用はございません。」
最初から角のある言い方だ。おれはどきりとした。だが不思議だった。当の竹中さんも、北川さんも、黙りこんだだけで、平気な顔をしている。
山口は竹中さんの方を向いて、ずばりと言った。
「あなたをお迎えにあがったんですが、お帰りなさいましょうね。」
「ああ帰るよ。」
おれにまで丁寧な竹中さんとしては、これはまた至極ぞんざいだ。山口は大きく頷いた。
「それで安心致しました。御両親もたいそう心配しておられますし、これから……。」
「あ、お父さんとお母さんは、いつみえるかね。」
山口は小さな眼をしばたたいた。
「こちらへ来られることになっていたが……。」
「とんでもないことを仰言います。わたくしが代理でお迎えにあがったん
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