は駄目だ。僕の中のものが、こわれていっちまう。そして、忘れられない。だんだん君を好きになってくる。……どうすればいいんだ。どうにでもしてくれ。どうすれば……。」
云いながら、彼の眼には、冷かな裸像が映っていた。水色の紗に漉された和らかな電燈の光の中、屏風を背景に、立膝で、長襦袢からぬけ出した上半身……。――「背が高いから、なんだけれど、あたし、そんなに痩せてないでしょう。」肌目のこまやかな、なだらかな肉附で……。それが、愛慾の気などみじんもなく、清浄と云えるほど冷かな、大理石の彫像のようだった……。
吉乃は少し身を引いて、固くなっていた。そして、不似合な長い溜息をもらした。
「酒をのんで、騒ぐといいわ。……何か弾きましょうか……あやしいんだけれど……。」
岡野は夢からさめたように、彼女の顔を眺めた。彼女の眼がちらと、極り悪そうに光った。それが彼の顔を輝かした。
「そう、飲もう。酔っ払ってもいいね。……そして、誰か、……君の好きな人でも呼んだら……。」
「いいの、ほんとに……。」
気懸りそうに彼女は笑った。
「じゃあちょっと、聞いてくるわ。」
そして彼女が立っていくと、岡野はじ
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