操守
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)吉乃《よしの》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説3[#「3」はローマ数字、1−13−23]
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一
吉乃《よしの》は、いつものんきで明るかった。だから或る男たちは、彼女をつまらないと云った。のんきで明るいだけなら、人形と同じだ。人形を相手に遊ぶのは、子供か老人――ロマンチックな初心者か、すれっからしの不能者か……。だが普通の者にとっては、酒の後では、煙草の味が一層うまいように、何かしら、賑かさが、淋しさが、色っぽさが、あくどさが、媚が、邪慳が、或は……兎に角刺戟が、嬉しいものだ。そこを吉乃は、明るくにこついているばかりで、技巧を弄することもなく、あけっぱなしでのんきで、別に面白そうでもなく、また不愉快そうでもない。だから相手も、面白くもなく、不愉快でもない。それでいて、彼女は相当に流行妓《うれっこ》だった。
宿酔《ふつかよい》の頭の中は、霧の夜の風景だ。奇怪な形象が、宙に浮ん
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