で、変幻出没して、朧ろな光が、その間に交錯する。ひどく瞬間的で、その瞬間の各々が、永遠の相を帯びている。然し永遠の相は、霧の中に没し去って、その重みのため、瞬間が引歪められ、引歪められ……遂には、空々漠々となる。佗びしい倦怠。平凡なもの、和《なご》やかなもの、眠たげなものが、ぼんやり覘き出す……。記憶の底に、思いがけなく、一種のはがいさで、吉乃の姿が……。
すらりと背の高い、その肌の綺麗なのが特長で、ほそ面の十人並の顔立……。気持よく伸びてる首、無意味に高い鼻、しまりのない唇から洩れる金歯の光、わりに不活溌な、でも物怖じせぬ眼付、それに綺麗な肌を以てして、彼女は、余りにのんきすぎるか、智恵がまわりかねるか、そういったおおまかさを具えていた。湯にはいるのが楽しみらしく、それも肌をみがくではなく、勝手に湯加減をぬるくしておいて、ぼんやりと、長々と、いつまでもつかっていた。「吉乃さんの長湯」といって、大抵の者は知っている。然しその不精らしさにも似ず、彼女は決して顔には湯を使わなかった。入浴の時も、厳寒の朝も、必ず冷水で顔を洗った。誰かに聞いたのか、或は婦人雑誌ででも読んだのか、湯は顔の皮膚
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