三味線を置いて、世間話になると、岡野もそれに加わったので、吉乃はなお気持が隙《ひま》になった。
澄代は酒も少しは飲めた。
「吉乃さん、こんど、隙な時、わたしの家へも遊びに来て下さいよ。わたし、各方面からのいろいろなお客が、一番楽しみなんだから……。家では、すっかり、門戸開放主義なの。その代り、御馳走はありませんよ。栄太楼のうめぼしくらいなら……。」
吉乃ははっとした。彼女はその「うめぼし」が好きで、家でよくしゃぶっていた……。岡野に話したことがあったらしい。疑念の眼付で、岡野の方を見ると、彼は煙草をそっぽに吹かしていた。
「主義はおかしい……。あんなに泥坊を怖がっていて……。」
「いやあね、泥坊は別よ。それと雷……。」
震《ちじ》み上った様子をして、彼女は吉乃の肩に手をかけていた。
「ねえ八重次さん、わたしこんな妹があったらいいと思うわ。似合うでしょう。わたしも背が高い方だし、このひと、おとなしいし、好きよ。」
「あら、そんならあたしは……。こちらの、妹御さん……。おかしいわ……。」
岡野の方を覗きこむ風をして、八重次は吉乃にやさしい視線を送った。
吉乃は澄代の手の下に、首を
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