乃のなごやかな姿を眺めている。許してくれ! そんな声が胸の底から起ってくる。……許してくれ! 僕は汚れてるんだ。汚れた身体を、君のところへ運んできた。やはり、淋しかったんだ。たまらなく惨めだったんだ。君の側で、心から憎んでやる、呪ってやる、あの女を、澄代を……。この気持、君には分らないんだ。つまりは同じだと! 嘘だ、嘘だ。××××と××××と……理窟はそうでも、それが、ちがうんだ。僕のこの惨めな気持は、どこから来るんだ。完全な取引になっていないからだ。商売になっていないからだ。生活の形式になっていないからだ。そんなら、止めろと云うだろう。ああ、どんなにか、さっぱりと……。あの、爛れた愛慾、腐った愛撫……。それが、僕をふみにじりながら、惹きつけるというのか。そんなことはない、断じてない。僕は誓う。ただ、君に逢えさえすれば……。そして君に逢うためには、僕の身分では、彼女から金を引出すより外仕方がない。ああ、呪われてあれ! 僕自身も呪われてあれ! ただ、信じてくれ、僕の心だけは……。僕は誓う、何を指してでも誓う。どうしたらいいんだ、どうしたら……。
 その気持、吉乃にもぼんやり通じていた。そ
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