も、少し変ってきた。やはりあけすけではあったが、その呑気者の彼女が、奥さん然と「勿体ぶって澄しこんで」いた。嬉しいのか困ってるのか、さっぱり要領を得なかったが、なんとなく「しっかりしたところ」が出てきた。
そして二人は、いやに「しんみり」してるというだけで、他の者には訳が分らなかった。繁々逢っていたが、仲はさはど「濃く」もなさそうだった。さほど嬉しそうもない逢い方で、さほど名残惜しそうもない別れ方だった。
岡野は泊っていくことはめったになかった。酒にも余り酔わなかった。けれど吉乃の方が、それこそ「ほんとに不思議に、思いがけなく、」酔っ払うことがあった。そしてそんな時、なぜともなく、「可哀そう」な気がするのだった……。
其他のことは、女中にも分らなかった。
岡野の好きな奥の階下の六畳というのは、昼間は薄暗くて、窖《あなぐら》のような感じだったが、小さな池に寒山竹と南天をあしらった、狭い二坪か三坪の中庭に臨んで、一寸した濡縁がついていた。
笹の葉のそよぎに、二人は黙って聴き入ることがよくあった。
聴きようで、哀切にも響く、無常にも響く、楽しくも響く……。岡野は涙ぐんだ眼付で、吉
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