きました。猿《さる》はどこかへ行ってしまいました。三日たってから、甚兵衛はそっと人形|部屋《べや》を覗《のぞ》いてみました。すると部屋《へや》の真中《まんなか》に、大きなひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の人形が立っています。
 甚兵衛はびっくりしましたが、猿《さる》の言葉《ことば》を思いだして、手をあげろと人形にいってみました。人形はひとりでに手をあげました。歩けと甚兵衛はいってみました。人形はひとりでに歩きだしました。それから、踊《おど》れといえば踊《おど》るし、坐《すわ》れといえば坐《すわ》るし、人形はいうとおりに動《うご》き廻《まわ》るのです。甚兵衛は呆《あき》れ返《かえ》ってしまいました。そしてぼんやり人形を眺《なが》めていますと、その背中《せなか》が、むくむく動《うご》きだして、中から、猿《さる》が飛《と》びだしてきました。
「甚兵衛さん、びっくりなすったでしょう。なあに、私が中にはいっていたんです。あの人形は空《から》っぽで、背中《せなか》に私の出入口がついてるのです。大蛇《おろち》を退治《たいじ》てくださったお礼に、これから私が人形を踊《おど》らせますから、それであな
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