衛もそれには困《こま》りました。なにしろ相手《あいて》は大蛇《おろち》ですもの、へたなことをやれば、こちらが一呑《ひとの》みにされてしまうばかりです。長い間《あいだ》考えこんでいましたが、いい考えを思いついて、はたと額《ひたい》を叩《たた》きました。
「そうだ、これなら大丈夫《だいじょうぶ》。ねえ猿《さる》さん、お前は猿智慧《さるぢえ》といって、たいそう利巧《りこう》だそうだが、案外《あんがい》馬鹿《ばか》だなあ。今私が大蛇《おろち》を退治《たいじ》てあげるから、見ていなさいよ」
 甚兵衛は急《いそ》いで家へ帰《かえ》りまして、綺麗《きれい》な女の人形を一つ取り、その中に釘《くぎ》をいっぱいつめて、釘《くぎ》の尖《とが》った先《さき》が、皆《みな》外の方に向《む》くように拵《こしら》えあげました。それを持《も》って猿《さる》の所へもどってきました。
「そんな人形をなんになさいます?」と猿《さる》は不思議《ふしぎ》そうに尋《たず》ねました。
「まあいいから、私のすることを見ていなさい」と甚兵衛は答《こた》えました。
 彼《かれ》は猿《さる》に案内《あんない》さして、大蛇《おろち》のでてき
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