ったまま、腰《こし》を抜《ぬか》さんばかりになって、そこに倒《たお》れかかりました。するとその真黒《まっくろ》なものが、からからと笑《わら》いました。甚兵衛は二|度《ど》びっくりして、よくよく眺《なが》めますと、それは一匹の猿《さる》でした。
「甚兵衛さん、甚兵衛さん」と猿《さる》はいいました。
甚兵衛は口をあんぐり開《あ》いたまま、猿《さる》の顔《かお》を眺《なが》めていました。それを見て猿《さる》はまた笑《わら》いだしながら、いい続《つづ》けました。
「甚兵衛さん、なにもびっくりなさることはありません。私はこの神社《おみや》に長く住《す》んでいる猿《さる》でありますが、人間のように口を利《き》くこともできますし、どんなことでもできます。あなたが毎日|熱心《ねっしん》にお祈《いの》りなさるのを感心して、上手《じょうず》に人形を使うことを教《おし》えてあげたいと思って、ここにでてまいったのです。けれどもその前に、あなたに一つお頼《たの》みしたいことがありますが、聞《き》いてくださいますか」
そういう猿《さる》の声がたいへんやさしいものですから、甚兵衛もようよう安心しました。そして答
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