どの神様《かみさま》がよかろうかしら、と甚兵衛はあれこれ考えてみました。町にはいくつも神社《おみや》がありましたが、上手《じょうず》に人形を使うことを教《おし》えてくださるようなのは、どれだかわかりませんでした。さんざん考えあぐんだ末《すえ》、いっそ人のあまり詣《まい》らぬ神社《おみや》にしようと、一人できめました。
町の裏手《うらて》に山がありまして、その山の奥《おく》に、淋《さび》しい神社《おみや》が一つありました。甚兵衛は毎日、そこにお詣《まい》りをしました。あたりには大きな杉《すぎ》の木が立ち並《なら》んでいて、昼間《ひるま》でも恐《おそ》ろしいようなところでした。けれども甚兵衛《じんべえ》は一心になって、どうか上手《じょうず》な人形使いになりますようにと、神様《かみさま》に願《ねがい》いました。
ある日のこと、甚兵衛はいつものとおりに、その神社《おみや》の前に跪《ひざまづ》いて、長《なが》い間《あいだ》お祈《いの》りをしました。そしてふと顔《かお》をあげてみますと、自分のすぐ眼《め》の前に、真黒《まっくろ》なものがつっ立っていました。甚兵衛はびっくりして、あっ! とい
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