、眼《め》の前に大きな鬼《おに》がつっ立ってるではありませんか。みんな胆《きも》をつぶして、腰《こし》を抜《ぬか》してしまいました。
 鬼《おに》の人形の中から、猿《さる》は大きな声でいいました。
「貴様《きさま》どもは悪《わる》い奴《やつ》だ。甚兵衛《じんべえ》さんの生人形《いきにんぎょう》を盗《ぬす》んだろう。あれをすぐここにだせ、だせば命《いのち》は助《たす》けてやる。ださなければ八裂《やつざ》きにしてしまうぞ」
「はい、だします、だします」と盗賊《とうぞく》どもは答《こた》えました。
 やがて盗賊《とうぞく》どもは、生人形《いきにんぎょう》を奥《おく》から持《も》ってきましたが、首《くび》はぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿《すがた》になっていました。それも道理《もっとも》です。盗賊《とうぞく》どもは人形を踊《おど》らして、金|儲《もう》けをするつもりでしたが、中に猿《さる》がはいっていないんですから、人形は踊《おど》れようわけがありません。盗賊《とうぞく》どもは腹《はら》を立てて、人形の首を引《ひ》きぬき、手足をもぎ取って、本堂《ほんどう》の隅《すみ》っこに投《な》げ捨《す》て
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