。
「狸《たぬき》の鳴《な》き声《ごえ》、知らない知らない、キイ、キイ、キャッキャッ」
それを聞《き》くと、小屋《こや》の中は沸《わ》き返《かえ》るような騒《さわ》ぎになりました。「狸《たぬき》の声を人形も知らない――人形が口を利《き》いた――猿《さる》の鳴《な》き声をした」とてんでにいいはやして、見物人《けんぶつにん》のほうが踊《おど》りだしました。
甚兵衛《じんべえ》は初め呆気《あっけ》にとられていましたが、やがて程《ほど》よいところで挨拶《あいさつ》をして、その日はそれでおしまいにしました。
甚兵衛と猿《さる》と二人きりになりますと、猿《さる》は顔《かお》から汗《あせ》を流《なが》しながらいいました。
「甚兵衛さん、今日《きょう》のように困《こま》ったことはありません。狸《たぬき》の鳴《な》き声を知らないのに、鳴《な》けとなん遍《べん》もいわれて、私はどうしようかと思いました」
「いや私もうっかりいってしまって、後《あと》で困《こま》ったなと思ったが、しかしお前が知らない知らないといったのは大できだった」
そして翌日《よくじつ》からは、踊《おど》りや鳴《な》き声を前からき
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