きました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、鼠《ねずみ》の鳴《な》き声」
 人形は「チュウ、チュウ、チュチュー」と鳴《な》きました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、狐《きつね》の鳴《な》き声」
 人形は「コン、コン、コンコン」と鳴《な》きました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、狸《たぬき》の鳴《な》き声」
 すると見物人《けんぶつにん》は喜《よろこ》びました。誰《だれ》もまだ、狸《たぬき》の鳴《な》き声を聞《き》いた者がありませんでした。皆《みな》静《しず》まり返《かえ》って耳を澄《すま》しました。ところが、いつまでたっても人形は鳴《な》きません。甚兵衛《じんべえ》はまたくり返《かえ》しました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、狸《たぬき》の鳴《な》き声」
 それでもまだ人形は鳴《な》きませんでした。鳴《な》かないのも道理《もっとも》です。人形の中の猿《さる》は、狸《たぬき》の泣《な》き声を知らなかったのです。甚兵衛はそんなこととは気づかないで、三|度《ど》くり返《かえ》しました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、狸《たぬき》の鳴《な》き声」
 すると人形は大きな声でこういいました
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