猿《さる》にそっと頼《たの》みました。
「猿《さる》や、どうか鳴《な》いてくれ、私が困《こま》るから」
「では泣《な》きましょう」と猿《さる》は答《こた》えました。
そこで甚兵衛は鞭《むち》を高く差上《さしあ》げ、大きな声でいいました。
「鳴《な》いたり、鳴《な》いたり」
人形は「キイ、キイ、キャッキャッ」と鳴《な》きました。
見物人《けんぶつにん》は驚《おどろ》いたの驚《おどろ》かないの、それはたいへんな騒《さわ》ぎになりました。「人形が鳴《な》いた」という者もあれば、「あれは猿《さる》の鳴《な》き声だ」という者もあるし、一|度《ど》に立ちあがってはやし立てました。すると甚兵衛は一きわ声を張《は》りあげていいました。
「今のは猿《さる》の鳴《な》き声であります。これからまた他《ほか》の鳴《な》き声をお聞《き》かせいたします。……さあひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]人形、鳴《な》いたり鳴《な》いたり、犬の鳴《な》き声」
人形は「ワン、ワン、ワンワン」と鳴《な》きました。
「鳴《な》いたり鳴《な》いたり、猫《ねこ》の鳴《な》き声」
人形は「ニャア、ニャア、ニャー」と鳴《な》
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