に、直《ただ》ちに小屋《こや》がけをしまして、「世界一の人形使い、独《ひと》りで踊《おど》るひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]人形」という例《れい》の看板《かんばん》をだしました。すると、甚兵衛の評判《ひょうばん》はもうその都《みやこ》にも伝《つた》わっていますので、見物人《けんぶつにん》が朝からつめかけて、たいへんな繁昌《はんじょう》です。甚兵衛は得意《とくい》になって、毎日ひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の人形を踊《おど》らせました。
 ところがある日、甚兵衛《じんべえ》は例《れい》のとおり、「歩いたり、歩いたり、……踊《おど》ったり、踊《おど》ったり、……飛《と》んだり、跳《は》ねたり」などといって、自由自在《じゆうじざい》に人形を使っていますうち、つい調子《ちょうし》にのって、「鳴《な》いたり、鳴《な》いたり」と口を滑《すべ》らせました。けれども人形は一|向《こう》鳴《な》きませんでした。さあ甚兵衛は弱《よわ》ってしまいました。でも一|度《ど》いいだしたことですから、今《いま》さら取消《とりけ》すわけにはゆきません。甚兵衛は泣《な》きだしそうな顔《かお》をして、人形の中の
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