形を検査《けんさ》したりしました。けれどももとより、舞台《ぶたい》にはなんの仕掛《しかけ》もありませんし、猿《さる》は人形の中にじっと屈《かが》んでいますので、誰《だれ》にも気づかれませんでした。そして、やはり、甚兵衛《じんべえ》は神様《かみさま》から人形使いの法《ほう》を教《おそ》わったということになりました。さあそれが評判《ひょうばん》になりまして、「甚兵衛の人形は生人形《いきにんぎょう》」といいはやされ、町の人たちはもちろんのこと、遠《とお》くの人まで、甚兵衛の人形|小屋《ごや》へ見物《けんぶつ》に参《まい》りました。

     三

 町の祭礼《さいれい》がすみますと、猿《さる》は甚兵衛に向《むか》って、都《みやこ》にでてみようではありませんかといいました。甚兵衛もそう思ってたところです。田舎《いなか》の小さな町では仕方《しかた》がありません。大きな都《みやこ》にでて、世間《せけん》の人をびっくりさせるのも楽《たの》しみです。それでさっそく支度《したく》をしまして、だいぶ遠《とお》い都《みやこ》へでてゆきました。
 甚兵衛は、都《みやこ》の一番|賑《にぎ》やかな場所《ばしょ》
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