」云いかけてまたも眼をくるくるとさした。「わしは何だよ、今天文をみていた所だが、此度はお前の手相をみてあげよう。手をかしてごらん。」
 躊躇してる所へ歩み寄って、彼女の片手を取ったが、生憎それは左手だった。然し久保田さんはそんなことを意に介しなかった。しなやかだと見える指先にまでみっちりと実がはいって、可愛くくくれた手首に至るまでの掌に、篦でつけたような柔かな筋が薄い皮膚を刻んでいた。
「ほう、お前もいい運だ。余りよすぎて悪いことが起るかも知れないが、兎に角いい運だ。」
 呆気にとられてこちらを見守ってる彼女の眼に出逢うと、久保田さんは肩をぴくりとさして手を離した。
「兎に角いい運だ。大事にしなくちゃいけない。」
 そう云いながら突然わきを向いて、庭の中を歩き出した。もう明るい光がさして、木の葉が一枚一枚輝いていた。雀の囀る声が急に耳についてきた。久保田さんは小さな木鋏を取ってきて、植込の枯枝を切ったりなんかしながら、朝食までの時間を庭で過した。
 その日はいつもより頭がよくて、仕事がわりに捗った。そして夜は早めに寝た。
 翌朝も久保田さんは早く起上った。庭を暫くぶらついていると、昨日
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