と覗き出しそうになるので、両手で着物の前を押えて、ぴしゃんこに坐って一息ついていると、久保田さんはふと、藁で分厚《ぶあつ》に編んだその深編笠の中で、白々《しらじら》とした気持になった。
「こんなに調子に乗って騒いでいて、一体どこまでいったらおしまいになるのかな。」先刻から妙に眼を輝かしてきた夫人と姪、微笑の合間にちらと見合しているらしい洋太郎とお清、それが両面からじっと自分を窺ってるようだった。それから子供達は……。「いや、子供達の喜び方はどうだ!」
そして久保田さんはまた、臼になって膝頭で歩き出した。
「此度は僕が臼だ。僕だよ。」と叫んで六歳の子が飛びついてきた。
「よしよし。」
すっぽりと御鉢入れをぬいで、頭についてる藁屑を払い落していると、お清と洋太郎とがまたちらと目配せしたようだった。久保田さんは肩をひょいと落したが、一寸小首を傾げながら洋太郎に云った。
「お前はこういう句を知っているか。ええと……子供の如くならずんば……神の国に入るを得ず……。」
洋太郎は落付払った微笑を洩した。
「少し違っていますよ。嬰児の如くならずば天国に入ることを得ず……というのじゃありませんか。
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