が欲望されるという歎声になる。
 このハムレットを、上述の境に置いてみるがいい。彼は後方を振向いて眺め、また前方を凝視し、そして其処にいつまでも佇んでいるだろう。その表情はどうであろうか。後方を眺める時は、皮肉な微笑を浮べ、前方を凝視する時は、憂欝な微笑を浮べるだろう。そして皮肉な微笑と憂欝な微笑とのうちに、足は水腫に重くなり、体駆は栄養不良に痩せ細ってくるだろう。
 だが、ハムレットのほかに、現代のドン・キホーテがいる。――「現代の」と云う所以は、漸くそういう型が出来かかって来たからである。彼は絶大なる信念を持っている。行動に対する信念を持っている。そしてこの信念は、思惟に対する反撥から来り、思惟の拒否を結果する。だからその信念は、行動の目的にはなくて、行動そのものに在る。何処へ行くかは問わない、ただ歩けばよいのだ。腹は水でだぶついていようと、ただ飲めばよいのだ。つまり、戦の目的を忘れた戦士なのである。これは、発足、出立、逃亡、遺棄、獲得、脱出、開拓、其他あらゆる言葉で呼ばれるところの、佇止は窒息であり、百の思考は一の行動に及ばないという思想とも、関連を持っている。斯くて、俺は一体ど
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