新時代の「童話」
豊島与志雄
それを二十世紀的と云おうと、現代と云おうと、或は新時代と云おうと、言葉はどうでもよろしいが、過去と現在との間に一種の距離を感じ、歴史の必然的なるべき推移のうちに一種の飛躍を感ずる、そういう時代に吾々は在る。
後方を振向いて眺めると、驚くほど遠望がきく。そしてこの遠望、普通のものではない。そこには距離の混乱がある。遠い「昔」のものも、すぐ彼方にまざまざと見えるのがあるし、近い「昨日」のものも、遙かに遠く霞んでいるのがある。つまり、全過去の遺産が一塊となってそこに控えているのだ。かかる遠望は、現在にとって、伝統の中絶を意味する。どこに中絶があるかは問わないとして、現在が過去全部に対立しているのである。この広い遠望のなかから、何を取ってこようと、それは吾々の自由だ。だがこの自由さは、謂わば無軌道の自由さに等しい。
然るに、前方を透し見ると、これは遠望のきかないこと甚しい。遠い地平線どころか、「明日」のことさえも見透しがつかない。現在辿ってる道はあるにはある。然しいつ如何なる断崖に出逢うか分らないのだ。それから先は、自分で道を切り拓いて進むより外はない。自
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