同様である。或る時、午前中薄曇りなのに洗濯をしたところ、午後から翌日中雨が降って、たいへん困ったことがあった。
「お洗濯をする時は、わたしに相談なさいよ。天気のことについては、新聞の天気予報より、わたしの方が確かです。」
 それも、毎日のことはどうか分らないが、洗濯に際しては、母の見当はよくあたった。私は相談することにした。
「今日は、お洗濯をして宜しいでしょうか。」
 母は庭に出て空を仰ぎ、いいでしょうとか、いけませんとか、指図をする。からりと晴れてる朝でもそうなのである。
 それが、実は、今になって思い当るが、重大なことだった。なんにも分らない小娘ならいざ知らず、一家の主婦が、お洗濯をして宜しいでしょうか、とは何事であろう。せめて、お洗濯をしようと思います、とでも言えばまだよかった。だが私はうっかり暮していた。
 或る日、母の留守に、アルバイトをしている学生だという青年が来て、洗濯石鹸とちり紙を買ってくれというので、私は少し買ってやった。あとで、そのことを母に告げると、母は不機嫌そうに黙りこんで、やがて私をたしなめた。
「学生だかなんだか分るものですか。一度買ってやると、また何度も
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