るし、先方の実家に対しても申訳がない。そういう道理が、三人とも分らないのか。新嫁を代りに行かせるという母にしろ、それを承諾した美津子にしろ、そんなばかなことを言いに来た貞一にしろ、どれもこれも分らずやばかりだ。もう断然留守居は頼まん。そういうひどい剣幕だった。吉川は驚いて、ひたすらお詑びを言った。すると今度は、いったい日常どんな暮し方をしてるのかと、仔細に聞かれた。至極平和な日常のことを、ありのまま伝えると、母にもう隠居しろと言え、こんどわたしが隠居を勧告してやる、そう言われた。そして吉川は酒を飲ませられた。伯父さまもやたらに飲んだ。たいへん憤慨してるようだった。
「わたしの言ったことを、そのままよく伝えておけ、と伯父さんは言ったけれど、僕にも、なんだかよく腑に落ちないんだ。伯父さんはいったい、堅っ苦しすぎる。なにも、僕を叱りつけなくってもよさそうだ。」
吉川の方で憤慨していた。伯父さまの言葉をそのまま伝えたのも、一つの欝憤晴らしだったのだろう。――然し私には、伯父さまの言ったことが理解出来る気がした。
みんな黙り込んでしまった。母は溜息をついて、冷えきった紅茶に酒を垂らした。
「
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