込へ廻るかも知れないと、前以て伝えておいた。何でもなく済むものだと、私は思っていたし、母もそう思っていたらしい。吉川の様子は意外だった。
私は紅茶を三人分いれた。吉川は来客用のウイスキーを求めて、紅茶にどくどくと注いだ。それも珍らしいことだった。
「どうかしたんですか」と母が尋ねた。
「どうもこうもありません。伯父さんに怒られちゃった。こちら三人とも、物識らずの分らずやだと、さんざんやっつけられちゃった。」
「いったい、それは、なんのことですか。」
「政子さんの、お産の入院中の、あの留守居のことです。」
吉川は酒の香の強い紅茶を飲み干して、更にも一杯求めた。
やがて吉川は気を取り直したらしく、思い起すように話しだした。
母の代りに美津子が参りますと、吉川は簡単に伝えた。すると、その理由を説明せよと追求された。説明出来るような理由なんか、何もなかった。もう宜しい、留守居は頼まん、といきなりやられた。母にと頼んだのであって、美津子に頼んだのではない、というのである。美津子はまだ嫁に来て日も浅く、こちらのこともよく知らない。母がいるのに、美津子を呼び寄せたとあっては、世間の義理に反す
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