てる長髪とに、なんだか威圧される気持ちだった。簡明に打ち明けるのがよさそうだった。
「実は、お宅との間にありました、あの竹垣のことですが……。」
「ははあ、あれですか、取り払ってさっぱりしましたなあ。ぼろぼろにくさっていて、眼障りでしたろう。」
「いえ、眼障りということもありませんでしたが、無くなってみると、へんなもので……もしお宜しかったら、わたくしの方で新たに作ろうかとも思っておりますが、如何でしょうかしら。」
「なあに、それには及びませんよ。わたしの方も囲いは丈夫に出来ているし、あなたの方も囲いは丈夫に出来ているから、心配はありません。」
「それはそうですけれど、わたくしの方から、あなたの方がまる見えなものですから……。」
「まる見え、それはいけませんな。」
「ですから……。」
「つまり、見るからいけないんで、見なければいいんです。」
「見なければいいと仰言っても、眼を向ければ、素通しに見えますでしょう。」
「だから、眼を向けなければいいんです。」
なんだか私は教訓でもされてるような工合になってしまった。この調子では、先方から私の方がよけいにまる見えだとは、言い出しにくくなった
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