絶縁体
豊島与志雄
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一
市木さんといえば、近所の人たちはたいてい知っていた。それも、近所づきあいをするとか、気軽に話しかけるとか、いうのではなかった。また、市木さんが世間的に有名だからでもなかった。往来で出逢って、会釈し合うこともなかった。だが、市木さんという名前がもちだされると、人々の間に、微笑めいた眼色や、好奇らしい眼色が、自然にかもし出された。というのは、市木さんは頭が少し変だ、というほどではなくとも、少くとも変人だと思われていたのである。だから、市木さんが知られていたのは、その名前と顔だけだと言ってもよく、また、成年の男たちよりも、女や子供たちに多く知られていた。
市木さんは世間的に有名などころか、いったいどういう職業のひとか、誰も知らなかった。それももっともで、何の職業も持っていなかったのである。家にとじこもってること
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