垣を取り払ってから、市木さんは私の庭へはいって来た。
「ちょっと、お宅の囲いを見せて頂きますよ。」
そう断っておいてから、市木さんは私の家をぐるりと一廻りして、あちこち検分した。
「お宅の囲いは、どこも壊れてるところはない。これなら大丈夫です。」
言い捨てて帰っていった。
私は呆気にとられた。市木さんは私の家の家主でもないのに、板塀やトタン塀などを検分して廻るとは、全く余計なお世話なのだ。もし壊れてるところがあるとすれば、どうしてくれるつもりなのだろう。あの表の塀と同じように、修理してくれるつもりだろうか。
だが、そうでもなさそうだった。というのは、竹垣を取り払ったあとは、そのままになっていたのである。植木屋にでも頼んで新たに作らせるつもりなのが、その職人の都合で延び延びになってるのかと、私は思ったけれど、そうではなかった。幾日待っても、竹垣は作られなかった。
そのため、私の方は困った状態に置かれた。市木さんの家と私の家とは素通しになってしまったのである。市木さんの方では、私の方に面してるのは裏口で、そこの木戸はいつも閉め切ってあり、片方は狭い庭の横手で、檜葉や八手の植込みが
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