に、私の家がある。小さな平家だが、わりにゆったりした庭がついている。庭は板塀ぐらいの高さの竹垣で仕切られていて、その竹垣の先に市木さんの二階家があった。つまり、市木さんの家の裏手と、私の家の横手の庭とが、隣り合せになっていた。市木さんはその家の所有者で、私の家は借家だった。
両者の間の竹垣は、朽ちはててぼろぼろになっていたが、それが、やはりあの颱風のために、半ば壊れてしまった。市木さんは表の坂塀は修理したが、裏の竹垣はもう修理のきかない状態であった。そしてその竹垣は、市木さんの家に所属するものだった。
いったい、家と家との間にある板塀とか竹垣とかいうものは、妙なことだが、両方に共有のものではなく、どちらか一方に所属するものらしい。そちらが先に作ったからか、或は境界の一線の内側にあるからであろう。
私の家の庭先にある竹垣は、市木さんのものだったから、壊れたからとて私がうっかり手をつけるわけにはゆかなかった。市木さんの方でも放りっぱなしだった。そして三日ばかりたってから、市木さんはその竹垣をすっかり取り壊してしまった。いよいよ作り替えるのだな、と私は思ったが、そうではなかった。
竹
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