。それを押っ被せるように、竹田さんは余事をべらべら饒舌り立て、私の返事も待たず※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々に帰って行った。
 私は仕方なく、まあ一度は市木さんに話してみることにした。
 例の竹垣を跨ぎ越して、市木さんのところに行き、声をかけてみると、二階から返事があった。これはいけない、今は誰にも逢いたくないと言われるのかな、と思っていると、市木さんは二階から顔を出して、構わないから上りなさいとの言葉だった。
 弘子さんの葬式の前後、私は二階へ通ったこともあるし、勝手は知っていた。
 縁側から上ってゆき、ちらと眼をやると、座敷には布団が敷いてあった。少しく軋る階段を上ってゆくと、二階の室にも布団が敷いてあった。市木さんはそこの縁側に足を投げ出して足首を揉んでいた。傍には繃帯が散らかっていた。
「どうかなすったんですか。」
「なあに、足首をちょっと捻挫しましてね。」
 市木さんは足首を丹念に揉み、それからイヒチオールを塗り、油紙をあてて繃帯をした。
 その間、私は煙草をふかしながら、室内をぼんやり眺めた。葬式の時と少しも変っていなかった。壁には木炭や鉛筆の風景スケッチが幾
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