ちだったので、費用は各戸の世帯主が負担するという立前になった。それについては、区劃内に比較的大きな家屋を持っていて、費用も別格となっている平野さんから、一時払いに難渋なひとには、金を立替えておくから月賦で返済して貰えばよいと、好意ある申し出があった。
それで、だいたいきまりかけたが、故障が一つあった。市木さんが承諾しなかったのである。最初から不服なので、後廻しにしたのだが、やはり承諾しなかった。嫌だという一言の返事だけで、相談のしようもなかった。もっとも、その一軒だけを飛ばして工事することも出来たが、折角足並の揃いかけたところだし、全部まとまるものならまとめたかったし、また、その一例によって、不服を言い出す者が他に出て来ないとも限らなかった。
そのことのため、近所の世話役とも言える人柄の竹田さんが、私のところへ頼みに来た。
「市木さんと懇意なのは、まあ、近所であなた一人だし、なんとか骨折ってみて下さいませんでしょうか。」
便所改造のことについては、私も承諾者の一人だったし、市木さんが不承知の旨も薄々は聞いていた。然し、市木さんを説得することは無理なような気がした。私は断りたかった
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