あったらしく、そしてその孤独を守るために、市木さんはあらゆる交渉や関係を断ち切ろうとしてるらしく、私には推定された。
 然し、その時受けた私の印象からすれば、市木さんは自分の考えを私に訴えることよりも、寧ろ、無意識的にせよ、私になにか教訓を垂れるつもりだったようでもある。私の錯覚だったろうか。
 夕陽を眺めながら、渦巻の話をし、そして二人は立ち上った。途中は黙々として、そのまま別れた。
 ところが、それからまだ大して経たないうちに、困ったことになった。
 近所の一区劃だけ合同して、便所を水洗式に改造しようとの議が起った。これは当局からも奨励されたことであり、某請負人が奉仕的に事に当るとの由だった。この奉仕的というのについては、陰に或る不正が存在するとの噂もないではなかったが、まあだいたい衆議はまとまりかけた。表の大きな街路には下水道が完成していたから、それに通ずる土管を地下に設ければよかった。一区劃といっても、二十戸ばかりのもので、そして小さな家が多かったから、費用は一戸当り六千円から一万五千円程度でよかった。ただ住宅所有者や借家居住者が入り交っており、同居人もあり、借家の家主もまちま
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