かな動きだが、それが次第に速くなり、中心に近づくほど急激に回転して凹み、深い穴となって、きゅーっきゅーっと巻き込んでいた。草の葉など投げ込んでみると、初めはゆっくりと遠廻りをし、次第に速い狭い円弧を描き、しまいには中心の凹みに落ち込んで、忽ち吸い込まれてしまった。その渦を眺めていると、身の引き緊る思いがするのだった。
 そういうことは私にも、子供の頃に覚えがあった。
「だが、それを今はっきり思い出してみると、違った意味に取れますなあ。つまり、違った感じになるんです。渦は渦ですが、人の心理の渦、それから社会的な渦、そういうものがはっきり見えてきますよ。」
 市木さんの表現は簡単でそして特殊であって、私にも充分には理解しにくかったが、要するに次のようなことらしかった。即ち、人間の心理にも一種の渦巻があって、その中心に落ち込んではもうどうにもならない。社会的な関係に於ても一種の渦巻があって、その中心に落ち込んではもうどうにもならない。人はいつも危険な渦巻の崖縁に立ってるようなものである……。
「だから、わたしは用心しております。」
 市木さんの用心とは、つまり、孤独な精神と生活とを守ることに
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